てらがよい日記

お寺という名の異世界に通って感じたこと

すり鉢の底からリネン服革命家が教えてくれたこと

 

今回は服のお話をしたいと思います。

 

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「よく人は、甲府を『擂鉢の底』と評しているが、当たっていない。甲府は、もっとハイカラである」

そういったのは作家・太宰治だったそうです。擂鉢(すりばち)の底とは、山々に囲われた甲府盆地のこと。わたしは数えるほどしか甲府に行ったことがないのですけど、すり鉢の底に店を構える現代のハイカラなお店をひとつ知っています。世にも珍しく素敵なお店。その名は・・・。

 

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「【 wafu 】 linen clothing」といいます。

服屋です。ご本人たち曰く、「リネンという謎の素材で、服作りをし続ける人達」。リネンとは麻。

wafuは夏のイメージのある麻素材の服を、一年中着られるようにする職人集団です。

自ら”リネン服革命家”と称し、麻ジャケット、麻パーカー、麻ウェディングドレスなど、普段はお目にかかれない珍しい形の麻服を作っています。

洋服だけじゃありません。麻バッグ、麻コーヒーフィルターなど麻素材の雑貨も作ります。今年は縫製場の横に古民家宿を一軒建て、自作の麻シーツや麻枕カバーなどを宿泊者に体感してもらう試みを始めました。とにかく、麻の魅力を伝えたいようです。

この奇妙な集団に以前からこっそり注目していたわたしは先日、wafuを訊ね、白髪がダンディな三代目社長である綿貫陽介さんに仕事場を見学させていただきました。

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わたしは縫製業のことはまったくわからないのですけど、縫製職人である綿貫さんのお話は共感するところが多々ありました。

その内容をここに紹介しても十分におもしろいのですが、今回は別の事を書きたいと思います。それは、わたしが麻に興味を持ったきっかけについてです。

 

wafuを見学しているときに、若い女性のスタッフさんから、

「どうしてリネンにご興味を持ったのですか?」

と訊ねられました。

「え?」

そういえばわたしはどうして麻に関心があるのだろう。わたしが言葉に詰まっていると、その女性スタッフが呟き始めました。

自分も以前はリネンに興味がなかった。でもリネンの速乾性に魅了された。濡れたハンカチはバッグに入れたくないけれど、リネンの生地ならすぐ乾く。知れば知るほどリネンという素材が好きになるーー。

その話を聞いて、はっとしました。それだ!

わたしが麻に惹かれたのも機能性だったのです。

記憶を掘り起こすと2017年2月、日本一の”おもてなし”があるといわれる石川県の老舗旅館「加賀屋」に泊まったときのことです。決してピカピカの建物ではないのに、客室もロビーも清潔で、整理整頓された空間に衝撃を受けました。すべてが丁寧なその光景は、禅の世界に似ているような気がしました。廊下に展示されている人間国宝作の九谷焼の美しさに感動し、器に興味を持ち始めたのもこのころです。

 

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その年の10月、真言宗の総本山である奈良県高野山で宿坊体験(お寺に泊まる)をしました。きれいに掃除された室内、無駄のない空間、丁寧な精進料理、これも最高に心地良いものでした。

 

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2017~2018年はすでに坐禅日課になっていて、高じて禅に関する書籍を読み始めたころだと記憶しています。複数の体験が重なって、そのころわたしは「余計なものをそぎ落とす」という禅的な行動様式に惹かれていました。

余計なものを削ぐというのは、必要最小限しか持たないということです。実践しようとすると、ものを減らさないといけないので、本当に気に入ったものしか買えなくなります。

日常生活はズボラなわたしが、一転して丁寧な生活を心掛けるようになりました。

いつどこから私が麻に興味を持ったのかは定かではありませんが、こういうことが積り積って、麻に辿り着いたのだと思います。最近わたしの身の回りのものにも麻製が増えてきました。wafuの作品もそのひとつです。

 

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実用性を求めてどうして麻に注目したのかといえば、それはこの素材が機能性に優れているからです。

麻の持つヒミツをwafuはこう説明しています。

1:吸湿性(吸水性) 麻の吸水性は綿のおよそ4倍

2:耐久性 コシが強いリネンは頻繁に行うお洗濯にも強さを発揮

3:抗菌性 細菌の発育や増殖を阻止する性質

4:保温性 繊維の中が空洞になっていて空気をため込む

5:速乾性 中が空洞なので水分を自然に外に出そうとする

6:防臭 ペクチンという成分が汚れをはじいてくれる

7:熱伝導性 天然繊維の中で突出した「熱伝導率の高さ」

 

いかがでしょうか。つまり、夏涼しくて、冬暖かい。それが麻。奇しくも甲府盆地の気候とは正反対です。日常生活に役立ちそうな気がしませんか?

わたしは日常使うものは機能的なものであってほしいと思います。いくら見てくれがよくても、使いづらいものは邪魔になる。生活に根づき、使い続けることができて、愛着がでるものは、道具として優れたものではなくてはいけない。そういうものづくりにわたしは最近惹かれてます。「麻」はそのひとつではないかと思うのです。

ものづくりって素敵ですよね。麻に取り憑かれた綿貫さんは、この魅惑の繊維について、

「暮らしの寄り添うものであり、カフェ店員、ピアノ教師、ゲームクリエイター、建築家 パン職人、小説家、フォトグラファーなどなど身近で多くの方々の活動のお役に立てるものだと確信しております。日々の活動パフォーマンスを引き上げ支えられる。活動を支える。そんな存在でありたいのであります」

とブログに綴っています。ご興味ある方は是非wafuのサイトをご覧ください(アフィリエイトではありません笑)。

handmade-wafu.com