あらゆる事柄がコロナウイルスの影響を受けていると言っても過言ではない状況です。
今週はトイレットペーパーの品薄情報が世間を駆け巡りました。
最初は嘘だったのに、一斉に購入されたことで本当に欠品に。
「嘘から出たまこと」 とはこのこと。パニックがパニックを呼んでいるようです。
わたし普段は薬剤師をやっていまして、医療人の端くれとして云わせていただくと、
いま大切なのは身近でできる予防方法を確実に行うことです。
第一には「手洗い」の徹底。これは多くの医療従事者が今呼びかけていることです。
でふと思ったのですけど、お寺では「手洗い」をどう意味付けているのでしょうか?
ヒントが『正法眼蔵』という書にありました。
『正法眼蔵』は全87巻からなる仏教の思想書で、曹洞宗の開祖である道元が、
弟子たちが釈迦の教えを正しく理解するように書かれた大書です。
その54番目の項目に「洗浄」というテーマがあります。
身をキレイにするための作法が書かれており、
トレイで用をたした後の手洗い方法を知ることができます。
どんな洗い方なのでしょうか。河出書房の現代語訳から引きます。
次に手を洗わねばならない。右手に灰を掬う匙を取り、まず灰を掬って、瓦石の面に置いて、右手で水を滴らして便に触れた手を洗う。瓦石に手を当てて研ぐように洗うのだ。たとえば、錆の附いた刀を砥石に当てて研ぐようにするのだ。灰を使って三度洗わねばならない。
手洗いの作法はこの後も続きますが、簡単にまとめますと、
まず灰で3度洗った後に、次に土で3度洗い、
さらに”さいかち”という植物を煎じた汁を(石鹸の代用品として)使ってもう一度洗い、
合計7度洗ってから最後に水かお湯で流すそうです。
7回!!
多っ!!!!!
長すぎでしょっ!!!!!!
興味深いのは、たかが手洗い一つに細かく作法が記されていることです。
『正法眼蔵』の示す「洗浄」とは、感染予防が目的の手洗いとは違います。
仏法を保つための作法が洗浄なのだそうです。
そう言われても、わたしなんぞはなんのことか、さっぱりわかりませんね。
仏教書を平易な言葉で解説することで定評のある
ひろさちやさんの著書『すらすら読める正法眼蔵』(講談社)では、
次のように解説しています。ちょっと長いですが大変わかりやすいので掲載します。
”威儀”という言葉があります。禅宗では”いいぎ”と読みますが、作法にかなった正しい動作、振る舞いのことです。仏弟子たる者は、一挙手一投足のすべてが在家信者から畏敬の念をもって見られるように行動すべきであるとされ、そのような行動を威儀と言うのです。
道元がこの巻で言っているのは、まさに仏弟子たる者は威儀を正せということです。そしてそのことを、道元は実に具体的に指示しています。まず爪を切れ、長髪にするな、と教え、本書では後半を省略しましたが、後半においては大小便の排泄行為や、その後の手の洗い方などを注意しています。
日々の行い一つ一つが禅なのだという考えが読み取れます。
坐禅だけが禅ではない、行住座臥全てを修行とするのは禅宗の基本的な考え方です。
さて、いま世間では、コロナウイルス予防に手洗いが注目されています。
手洗いは30秒ほどかけて洗うのが正しいとされ、
これは「ハッピーバースデー」の歌2回分にあたります。
さいきん、わたしは歌を頭の中で歌いながら手を洗っています。
30秒ほどかけてじっくり洗います。そこで初めて気づいたことがあります。
丁寧な手洗って、なんか気持ちよくないですか?!!!!
手を洗うという行為に没頭すると、
それまでのせかせかした時間が、
一旦リセットされるように感じます。
心が落ち着くんです。癒されるんです。
しかも感染予防になるのですから、
ありがたやありがたや。
ぜひ、やってみてください。おすすめです。
最後に先日、手洗いや消毒について取材を受けましたのでご紹介します。
お時間許せばご覧いただけましたら幸いです。
「新型コロナウイルス「最適な消毒薬は?」「安全な使い方は」「入手困難どうすれば?」薬剤師に聞きました」(YAHOO NEWS)
今回の参考図書はこちらです